レーザーは人類が初めて手に入れた制御可能な電磁波です。
(まあ、電気もそうなのですが・・・。)
確かに『W(ワット)』と言う単位で表される『出力』が高いと熱量的にも高くなり、 200WクラスのCO2レーザーであれば金属材料を切断する事が可能なので、これは間違い無く『レーザーの強さ』の一つの指標であります。
しかし出力だけに目を奪われてしまうと、TPOによっては他のもっと強い可能性があるレーザーを見逃してしまう事になります。
そこで、ここではその他のレーザーの強さに関わる定義に関してスポットを当てたいと思います。
話がややこしくなるので、「全て出力が同じだったら」と言うのを前提条件とさせてもらう事をご了解ください。
1)『目に見え易い』最強のレーザーの条件
標準的な人間の目は555nmの波長色の認識度が最高と言われています。(環境や個人差などの条件は除いての話です)この555nm付近の波長の色を、人間の目と脳の組み合わせは『緑(グリーン)』と認識するのです。
しかしながら波長が固定の汎用のレーザーでは、丁度その555nmの波長が出る物が無いので、その555nmに一番近い532nmの波長が出るグリーンレーザーが色々な所で使われています。
これがグリーンレーザーポインターがプレゼンなどに最強と言われる所以です。
(同じ波長であれば、出力が高ければ高い程、視認性はどんどん高くなります。)
『目に見える』と言う定義では、『555nmの波長(若しくはそれになるべく近い)』と言うのが最強の条件となります。
2)『単位面積当たり』が最強のレーザーの条件
同じ出力であっても、レーザー光の照射エリアを絞れば絞るだけその単位面積当たりの出力は強くなっていきます。例えば同じ1mWの出力であっても、それが10c㎡当たりなのか、それとも1c㎡当たりなのかでは10倍もの差が出てきます。
レーザー光を絞る為に使われるレンズから得られるそのスポット径は、理論上『スポット径=fλ/D』で計算する事が出来ます。ここでのfは焦点距離であり、λが波長、そしてDが元のレーザー光の直径です。
この理論上の最小スポット径は『回析限界』と言われ、それ以上は光を絞り込む事が出来ないとされています。
(実際は回析限界以下での数十nmでの加工に成功したと言う話もあります。)
上の計算式からもわかる様に、波長が短くなればなる程、小さいスポット径に絞り込む事が可能な訳です。
そしてそれは凡そ波長と同じ位のスポット径となるはずです。
だから1,064nmの波であれば1,064nm径、532nmであれば532nmと言う微小なスポット径が理論上は得られるのです。 (『n(ナノ)』は10のマイナス9乗)
実際は波長を短くすればするほどレーザー機器の出力が小さくなりがちで、前提条件の『出力は同じ』と言う状態は難しいのですが、単純にこの場合532nmは1,064nmの2倍強いと言えますよね?
『単位面積』と言う定義では、『波長が短い』と言うのが最強への条件となります。
3)『単位時間当たり』が最強のレーザーの条件
同じ出力であれば、それがどれ位の単位時間でレーザー光から得られるかで大きく変わってきます。例えば1mWの熱量が1秒間で得られるのか、それとも1/10秒間で得られるのかでは、時間単位では後者の方が10倍強い事になります。
連続波であるCWレーザーではわかり辛いと思いますので、パンッパンッと言うイメージで照射されるパルスレーザーで説明しましょう。
パルスレーザーの一発一発は、それぞれ時間幅を持っています。
ns(ナノ秒)オーダーのものもあれば、短い方ではfs(フェムト秒)オーダーのものもあり様々です。(『f(フェムト)』は10のマイナス15乗)
10nsのパルス幅のレーザーと、10fsのを比べると時間当たりの強さは何と100万倍にもなります。
だからレーザー医療や加工に使われているレーザーは『パルスレーザー』が多いのです。
また照射するパルス数の制御により、微調整が可能なのも使い勝手としては良い所です。
同じ出力であっても小出しにするより、溜めて、溜めて、溜めて・・・・短時間にドバッと出す方が強くなると言うイメージです。
『時間単位』と言う定義では、パルスレーザーであれば『パルス幅がなるべく短い』と言うのが最強の条件となります。
4)『光子エネルギーが強い』最強のレーザーの条件
現状の産業用途などで使われる短波長で高出力のレーザーと言えば『エキシマレーザー』でしょう。注入するガスの種類により変わるのですが、例えば KrFの場合は248nm、ArFの場合は193nm、F2の場合は157nmと言うかなり短い波長を得る事が出来ます。
この波長を『1238.9/λ=eV』で換算すると、248nm=5.0eV、193nm=6.4eV、157nm=7.89eVとなり、これは非常に強い光子エネルギーとなります。
一般に波長を短く変換すると数分の一に出力はダウンしてしまうのですが、その様に出力が低くなってしまっても波長が短くなる事により得られる光子エネルギーは、分子間結合を断ち切る事を可能にしたり、対象物への吸収度が高くなったりする事などにより補えて余りあるのです。
『光子エネルギー』と言う定義では、『波長がなるべく短い』と言うのが最強の条件となります。
と、『強いレーザー』とは『何に対して』と言う対象により、出力の他にも色々と条件が変わってくるのです。
出力の話題だけでなく、「あのレーザー5evもあるんだってさ、すっげー強いな!」なんて、一般会話で流行る事は無いのでしょうが・・・。
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